全世界株式ETFとして有名な銘柄は、どれを選ぶべきなのか──。
全世界株式ETFといえばVTが有名ですが、積み立て投資目的で全世界株式に投資する際にどのETFを選ぶのかは大きな問題です。
この記事では、米国上場の全世界株式ETFについて比較してみます。
分配金利回り:SPGM>VT>ACWI
積み立て投資を目的にETFを選ぶためにはいくつかの観点が考えらます。シャープレシオや分配金再投資リターンなど様々な指標がありますが、ETFを選ぶならシンプルに分配金利回りで選ぶという方法があります。利回りの計算にあたっては価格も重要な要素であり、3銘柄を横に並べてみるとその特徴は明らかです。
なお、比較は2021年末(2021年12月31日)時点での情報をもとにしています。
VT | ACWI | SPGM | |
---|---|---|---|
名称 | バンガード・ トータル・ワールド・ ストックETF |
iシェアーズMSCI ACWI ETF |
SPDRポートフォリオ MSCI・グローバル・ ストックETF |
運用会社 | Vanguard | Black Rock | State Street |
設定日 | 2008/06/24 | 2008/03/26 | 2012/02/27 |
連動指数 | FTSE グローバル・ オールキャップ・ インデックス |
MSCI オール・ カントリー・ワールド・ インデックス |
MSCI ACWI インベスタブル・ マーケット・ インデックス |
経費率 | 0.08% | 0.33% | 0.09% |
分配時期 | 3・6・9・12月 | 6・12月 | 6・12月 |
年間分配金 | $1.955000 | $1.812511 | $1.121002 |
分配金利回り | 2.11% | 2.00% | 2.30% |
年間騰落率 | 16.04% | 16.60% | 18.74% |
価格(2021年末) | $107.43 | $105.78 | $57.84 |
価格(2020年末) | $92.58 | $90.72 | $48.71 |
標準偏差(年) | 9.63% | 9.59% | 9.28% |
シャープレシオ(年) | 2.13 | 2.15 | 2.32 |
この比較から2021年において、分配金利回りではSPGM>VT>ACWI、騰落率ではSPGM>ACWI>VTであることがわかります。
なぜ分配金利回りや年間騰落率に差が出るのか?
先ほどの比較を見ると、同じように全世界株式という名目のETFにもかかわらず、なぜこれだけの差が出るのか気になる方も多いでしょう。それは、端的に言えば連動するインデックスが異なるため、組み入れている銘柄やウエイトが異なることに起因します。
もう少し長めの期間で比較してみましょう。3つの中で歴史が浅いSPGMの設定日(2012/02/27)から2021年末までのパフォーマンスは以下の通りです。


グラフはETF価格の変動を示しており、青がVT、赤がACWI、黄色がSPGMです。すこしわかりにくいですが、青のVTと赤のACWIは比較的重なっており、それより少し上に黄色のSPGMが位置しています。つまり、長い期間で比較すると、単純な騰落率ではSPGMがもっとも上昇しています。2020年3月のコロナショック時の下落を見ると、3つのETFはいずれも大きく下落し、パフォーマンスにそれほど大きな差が出ているようには見えません。では、これら3つのETFは具体的にどのように異なるのでしょうか?
VTが連動する指数は、FTSE社が算出・公表しているFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスであり、先進国・新興国を含む大型・中型・小型株から構成されています。様々な銘柄に投資しているのはもちろん、国、セクターなど様々な観点で分散がはかれているというのが大きな特徴です。また、全世界株式ETFといえば多くの人がVTを想像するように、3銘柄の中でもっとも純資産残高が大きいです。
一方でACWIは、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)というMSCI社が算出・公表する指数に連動します。この指数は先進国・新興国を含む大型・中型株から構成されており、小型株が含まれないのがポイントです。小型株は大型・中型に比べるとすべてのマーケットに占める割合は大きくないため、分散自体は十分に行われていると言って問題ありません。なお、FTSE社と比較すると、先進国・新興国の定義が若干異なっており、微妙に構成国が異なるという差もあります。
そして、SPGMはMSCI ACWI インベスタブル・マーケット・インデックス(IMI)に連動しており、こちらは先進国・新興国を含む大型・中型・小型株から構成されています。ACWIに小型株を追加したような指数となっています。上記の2ファンドと比べるとファンドの規模は2桁ほど小さいものの、ACWIよりも経費率がかなり低く、VTに匹敵するといっても過言ではありません。若干ですが、パフォーマンスはVTやACWIより優れています。
もしどれかひとつを選ぶとすると、私ならVTを選択します。理由としては、①経費率の低さ、②ファンド規模が大きく信頼できる、③保有銘柄数がもっとも多く銘柄分散できている、という点があげられます。
ただし、VTを選ぶのであればもっとおすすめの方法があります。コスト意識の高い米国では常識ですが、実はVTとほぼ同様の運用をもっと低コストで行うことができます。というのも、全米株式ETFのVTI(経費率0.03%)を60%、先進国市場除く米国ETFのVEA(経費率0.05%)を30%、新興国ETFのVWO(経費率0.1%)を10%の割合で投資することで、経費率を実質0.043%におさえ、VTとほぼ同じ運用を行うことが可能なのです。もっとも、正確には価格変動によりそれぞれの本来の比率は変わってきます。
また、コストの観点で言えば、考慮が必要なのはファンドの経費率だけではありません。購入時や売却時にも取引手数料がかかります。最近では多くの証券会社が海外株式や海外ETFを取り扱うようになってきており、手数料で優劣がかなりはっきりするようになってきました。手数料を比較して実際にどの証券会社を使うか検討してみるとよいでしょう。

分配金は市場動向に左右されやすい
保有しているだけで得られるため忘れがちですが、ETFの分配金は市場動向により変化します。分配金は実際に保有している株式の配当を原資としているため、企業が配当を出さないとETF分配金も減ることにつながります。
実際、2020年はコロナショッック後に株価は上昇しましたが、多くの企業が業績の先行きの不透明感から減配や無配になったことで、ETFの分配金に影響がありました。
全世界株式ETFは高配当株式ETFと異なり、分配金だけでなく価格自体の上昇、つまりキャピタルリターンを狙える点が魅力です。コロナショック以降、各国で金融緩和が行われ金利は大きく低下し、GAFAなどのメガテックを中心にグロース株が躍進しマーケット全体を牽引しました。そのような恩恵をしっかり受けながら全世界に分散投資できる(ついでに分配金をもらえる)というのが全世界株式ETFの魅力と言えます。
このように、いかに分散するための全世界株式への投資といえども、同じような投資対象に見えても少しずつ結果が異なるというのが投資における銘柄選びの醍醐味といえるでしょう。