金利が上がると必ず気になるのが為替レートへの影響です。
為替はFXだけでなく海外取引による企業財務への影響を通して株式にも大きく影響するため、金利変化による影響を正しく理解おきたいところです。
この記事では、為替レートの決定論として金利平価説を紹介します。
そもそも為替はさまざまな要因により決定されるものであり、要因のひとつが全てを決めるというわけではありません。この記事ではあくまでも金利と為替の関係に絞って紹介していきますが、より広範な為替相場の考え方については以下の記事もご覧ください。

金利平価説とは?
金利平価説とは為替レートの決定理論のひとつであり、どの通貨で資産を保有しても収益率が同じになるように為替レートが定まると主張する説です。
一般的に、金利平価説では以下の2点を仮定します。
- 完全資本移動:2国間を自由に資金が移動できる
- 内外資産完全代替:投資家はリスク中立的である
もし、あらゆる投資家が機会があれば裁定取引(アービトラージ)を行うのであれば、ある2カ国の金利に差があるときには、より高い収益を得られるほうに投資を行うはずです。投資家がリスク中立的であるという仮定のもと、2カ国の金利にもとづき投資を行うとすると、どちらに投資しても期待収益率が同じ水準に落ち着くはずである、とするのが金利平価説の考え方です。
為替レートの決定理論には他にも「購買力平価説(長期的な為替レート決定理論)」「アセットアプローチ理論(短期的な為替レート決定理論)」がありますが、金利平価説は現在の為替レートに対して将来の為替レートがどう動くかを考えるものであり、購買力平価説とアセットアプローチ理論は為替レートがどのような要因とメカニズムで決定されるかを考えるものであるという違いがあります。
金利平価説を考えるにあたり「将来の為替レート」には2つの種類のものが考えられます。例えば「将来」を1年後とすると、ひとつは「1年後の直物為替レート」であり、もうひとつは「1年物のフォワードレート」にあたります。1年後の為替レートを考慮する際に、もし前者を用いるのであれば、1年間でどれだけ為替レートが変動するかという為替変動リスクを考慮する必要が生じます。1年後の直物為替レートを用いた、為替変動リスクのある(リスクがカバーされていない)金利平価説を「カバーなし金利平価」といいます。
一方、1年後のフォワードレートを用いる場合は為替変動リスクがないので、カバーのある(リスクがカバーされている)と言う意味で、「カバー付き金利平価」といいます。
ここでは、それぞれの金利平価について数式で説明することはしません。もし詳細に興味があればWikipedia等を参照してみてください。
実際のマーケットにおける金利と為替の関係
むしろ投資を行っている方にとって興味があるのは、机上の理論よりもマーケットがどのように動くかという点でしょう。現実のマーケットの動きは理論よりも遥かに複雑です。
実際に日本と米国の金利と、ドル円の為替レートの変動を見てみましょう。そもそも金利としてどれを見るのかは考える余地があるのですが、ここではマーケットの長期的な予想を織り込んでいる10年国債利回りで比較してみます。

上のシアン色が日本の10年国債利回り(以下「日本の金利」といいます)、真ん中のオレンジ色が米国の10年国債利回り(以下「米国の金利」といいます)、一番下の青色がドル円の為替レートです。2016年9月以降に日本で長短金利操作、いわゆるイールドカーブコントロール(YCC)が導入された以降、日本の長期金利は非常に低い水準にあり、若干の上下はあるものの、2017年以降はほぼ動いていないと考えていただいてかまいません。つまり、基本的には、米国の金利とドル円にのみ注目すれば大丈夫です。
2015年以降で見ると、米国の金利とドル円のチャートの上下は大雑把に言えば動くタイミングや相対的な上下の幅が似通っていることがわかります。
この傾向は為替レートの変動を見る上で非常に重要な事実を示唆します。つまり、為替の変動は、金利の変動と大きく関係しているのです。ここでわかるのは、金利と為替の相関関係であり、因果関係(為替が先か金利が先か)は別の検証が必要ですが、金利か為替のいずれか一方の動きやトレンドが予想できればもう一方について予想できるというのが重要なポイントです。
ドル円に限って言えば、大まかには、マーケットがリスクオンであればドル高円安(ドル円は上がる)、リスクオフであればドル安円高(ドル円は下がる)傾向にあるのですが、これは株式市場の動向と米国金利の動きとの兼ね合い(バランス)とも関係することがわかります。
つまり、米国マーケットが不調のときには米国金利が上昇する傾向にあり、金利要因での為替への影響はドルが強まることでドル高円安要因になります。一方、マーケット不調のときには米国株は下落、つまりリスクオフの風潮がドル安円高になりえます。為替(ドル円)はこのようなバランスの中での綱引きでどちらに動くかが決まります。一般的に政策金利を引き上げない限りは株式マーケット(リスクオン・リスクオフ)の傾向が強く、一方でFRBが政策金利(FFレート)を動かすと金利の影響が強くなります。これが「FRBには逆らうな」というウォール街の格言につながっているのです。
金利と為替には切ってもきれない関係があるのですが、ここではその応用としてFXにおける新興国通貨、いわゆる高金利通貨について考えてみましょう。
高金利通貨はFX初心者に人気であり、そのスワップポイントの高さから誰もが一度は通る失敗だと思います。高金利通貨を一度ロングしてしまうと最後、ずるずると円高が進み、ロング解消のタイミングを逃し、損が大きく膨らんだところで泣く泣く損切りというのが典型的なパターンです。
この理論的な説明に金利と為替の関係を適用してみると、新興国通貨は高い金利が設定されていますが、これは将来に対する不確実性、もっと言えば先行きの不安が含まれているために高い金利でなければ誰からも買われない状態だと捉えることができます。誰からもその通貨が買われないと相対的にはペアとなるもう一方の通貨が強くなりますから、新興国通貨安が進むはずです。この状態が絶妙な売買のバランスのもと維持され、新興国通貨はいかにも割安に見え買いたくなるようなレートが維持されていくわけです。
まとめ
ここでは経済学で有名な金利と為替の関係について紹介してみました。今では為替や原油価格などマーケットの動きは私たちの生活に大きく影響するものです。
皆さまにはマーケットの動きについて理解していただき、投資に生かすことで少しでも豊かな生活を送ることのお役に立てればと願っております。
