トレーダーにとって経済指標は読めて当然──。
投資を行っている限り、相場が大きく動く可能性のあるタイミングはチャンスと捉えている節があります。
スキャルピング専門の方を除けば、重要指標の発表の前には自分の立ち振る舞いをそれなりに考えておく必要があります。しかし、その読み方を知らないという方も意外と多いのではないでしょうか?
この記事では、専業トレーダーが経済指標の読み方の基本について語ってみます。
主要な経済指標(国内)
世界中で様々な指標が日々公表されていますが、ここではまず日本国内での重要な指標をチェックしましょう。国内の指標の動きを理解できれば、海外指標を読む際にも応用が効きます。
国内総生産(GDP)
国内総生産とは世界各国で発表される最も代表的な経済指標のひとつです。英語ではGDP(Gross Domestic Product)と呼ばれ、一言で言うと各国の経済力を示す経済指標であり、ニュースや新聞でもたびたび取り上げられます。
国内総生産は国内で一定期間内に生産された財やサービスなどの付加価値の合計を示す指標です。人々が商品やサービスの購入に使ったお金の総計とも言え、その国の経済力(国の所得)を示す目安となります。各国の間の経済水準を比較する際にも使われますが、投資の世界では時系列での変化で見ることが多く、前回よりも上昇した・下落したという見方で景気を判断します。
以前は国民総生産(GNP:Gross National Product)がマクロ経済学の生産統計として用いられていましたが、海外で国民が生産した付加価値も含まれてしまう欠点があるため、見かける頻度は少なくなりました。国内総生産は国連によって集計される基準が定められていて、総額や成長率で比較することで一国の景気変動を簡単に知ることができる重要な指標です。
日本の国内総生産は内閣府が推計していて、消費(家計による支出)と投資(企業の支出)、政府支出、貿易収支の合計値で算出しています。
国内総生産(GDP)には「名目GDP」と「実質GDP」の2種類があります。名目GDPはそのときの市場価格で一定期間に生み出された付加価値(経済活動)を評価した額を基に算出します。一方、実質GDPは名目GDPから物価変動の影響を除いた額を基に算出します。一般的に経済成長率は最終的に物価変動による影響を考慮した「実質GDP」で評価されます。
また名目GDPを実質GDPで割って算出することができる「GDPデフレーター」は消費者物価指数(CPI)と同様に代表的な物価指数であり、経済がインフレなのかデフレなのかを示す指標です。物価の上昇または下落がどれくらい発生したか数値で捉えられ、増加率がプラスであればインフレーション、増加率がマイナスであればデフレーションとなります。
消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数はCPI(Consumer Price Index)とも呼ばれ、一般消費者世帯が購入する物やサービスの総合的な価格の水準を表す数値です。ドイツの経済学者であるラスパイレスが1864年に提案したラスパイレス計算式によって算出されており、日本以外でも多くの国がこの計算式を採用しています。
ある時点の世帯の消費構造を基準にして、同じものを買った場合の費用がどのように変動したかを指数値で表したものです。消費者物価指数は物価変動を示す指標で、インフレ状況や景気を判断する際の重要指標です。
また、消費者物価指数は買い手側から測る物価指数ですが、これとは別に生産者側から測る「生産者物価指数(PPI)」という指標もあります。
景気動向指数
景気動向指数は経済の先行きを予測する上で、その方向性を判断するために作成された指標です。内閣府経済社会総合研究所景気統計部が毎月調査を行い、2ヶ月後の月末に数値が発表されます。生産や雇用など、複数の指標の動きを見るために組み合わせて作成されており、景気局面の判断や将来の予測を行うのに役立ちます。
景気動向指数は29系列の指標から成り立っており、先行指数11系列、一致指数9系列、遅行指数9系列が採用されています。この3つの指数にはそれぞれ特性があり、「先行指数」は数カ月先の景気の動向を表し、「一致指数」は現状の景気を表し、「遅行指数」は先行指数や一致指数と比較して半年から1年遅れて反応する指標です。
景気動向指数にはCIとDIがあり、それぞれ使い方が異なります。
CI(Composite Index)とは景気動向の大きさ(量感)を判断するための指標で、基準年を100として比較します。単月の景気動向に左右されないように移動平均値で一定期間の動きを把握することが好ましいほか、前月の数値を比べて大きく増加/減少している場合は急ピッチで景況が変化していると考えることができます。構成する指標の動きを合成し、景気変動の大きさや量感を測定するための指標です。
DI(Diffusion Index)とは景気の変化の方向性を判断するための指標です。3ヶ月前と比較して構成されている指標が上昇しているときは「1」、下落しているときは「0」、横ばいであるときは「0.5」として計算します。この指標のうち、プラスの占める割合が50%を上回っていれば景気拡大の局面、50%を下回っていれば景気後退の局面と判断できます。各経済部門に対する景気の波及の度合を測定するための指標です。
日銀短観
日銀短観は「全国企業短期経済観測調査」の略称で、日本銀行(日銀)が全国の企業経営者を対象としたアンケート調査を実施し、その結果を基に集計される指標です。日銀短観は全国約1万社の民間企業が対象となり、3ヶ月ごと(3月、6月、9月、12月)に現状の景況感と先行き(今後3ヶ月の見通し)景気を調査します。毎年4月、7月、10月、12月に発表され、市場では上で紹介したDI(「業況判断DI」等の呼び方もある)が注目されます。
経済環境の現状や先行きのほかに企業活動に関わる項目についても調査していて、売上高や経常利益、設備投資額などの事業計画の実績・予測値などがその対象です。なお、日銀短観の企業の回答期間は約1カ月となっています。
日銀短観の特徴として、調査している企業のサンプル数が多く、公表まで期間が短いことから速報性が高いとされており、日本の景況判断では最も重要視されています。日銀短観は日銀の見解ではなく企業経営者の景況感を示すものですが、日銀の金融政策の決定の重要な判断材料の一つとして利用されていることから株価や為替レートに大きく影響を与えます。このように日銀短観は日本の景気動向を把握する上で、注目すべき重要指標の一つで、海外では”TANKAN”の名称で知られています。
主要な経済指標(海外)
雇用統計
一般に重要指標として「雇用統計」と呼ばれているものは米国の雇用統計を指します。
米国の「雇用統計」は、各国の数ある経済指標の中で最も重要度が高く、最も注目度が高い指標と言っても過言ではありません。米雇用統計が発表される毎月第1金曜日の夜はチャートから目を離さず夜通しトレードに集中する投資家も多いようです。
調査対象者が多く労働市場の状況を把握できることから、世界中の市場参加者から最も注目されている経済指標です。
雇用統計で発表される統計は全部で10数項目あり、データも膨大です。この中で特に注目されるのは、非農業部門雇用者数(NFP:Non-Farm Payroll)と失業率、平均時給の3つです。非農業部門雇用者数は自営業や農業従事者を除いた、民間企業または政府機関に雇用されている就業者数を表しており、事業所の給与支払い帳簿を基に集計されています。前月比での雇用者数の変化が極めて重要で、事前予想値と結果の値が大きく乖離することも少なくなく、為替市場だけでなく株式市場の値動きにも大きな影響を与えます。失業率は失業者÷労働力人口(失業者+就業者)によって求められます。失業率の変化によってマーケットが変動することも少なくなく、非農業部門雇用者数がほぼ事前予想通りの結果となった場合には材料視される傾向にあります。より精度を高めて労働市場を把握したい場合は労働参加率も一緒に確認するとよいでしょう。
消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数は先ほど国内の指標として紹介しましたが、海外においてもその国のCPIは大きな注目を浴びています。
米消費者物価指数は、米労働省労働統計局(BLS)が毎月発表する、米国のインフレ率を知るための重要な経済指標です。公表日は毎月15日前後です。
ユーロ圏の消費者物価指数は、欧州連合統計局がユーロ加盟国の消費物価指数をまとめた数値を発表するものです。公表日は毎月15日前後です。
インフレはその国の通貨の価値につながるため、国内外で発表される代表的なインフレ指標である「消費者物価指数」については投資戦略や今後の相場見通しを立てる際には必ず確認しておきたい指標です。また消費者物価指数が中央銀行の金融政策の決定に影響を与えるインパクトは大きく、政策変更の期待感からマーケット全体に幅広い影響を与えます。
政策金利
政策金利とは中央銀行が金融政策を実行する上で設定する金利で、一般的に金融機関に向けて融資を行う際の金利を指します。日本では日本銀行(日銀)、米国では連邦準備制度理事会(FRB)が中央銀行として様々な役割を担っており、物価や通貨の安定を目的として行う政策を金融政策と言います。現在、日本では「無担保コール翌日物」を、米国ではフェデラル・ファンド金利(FF金利)の「誘導目標」を政策金利としています。政策運営の中で政策金利を調節することで金融機関の預金金利や貸出金利を通じて実体経済に影響を与えます。
経済活動の中で景気は循環しており、当然景気が良い時、悪い時があります。景気が良いときは経済の過熱感によるインフレ率上昇を抑える目的で中央銀行は政策金利を引き上げます。高い金利により企業は資金調達がしづらくなり、設備投資などの経済活動が抑制されます。逆に景気が失速している時はインフレ率低下を抑える目的で中央銀行は政策金利を引き下げます。企業は低い金利で資金を調達することで、設備投資などの経済活動が活発になります。
経済指標の活用方法についてはこちらの記事でも紹介しています。

まとめ
この記事では経済指標の基本について紹介しました。
情報が氾濫している現代で情報の数だけが投資を成功させる要因とはなりにくくなっています。とはいえ、重要な指標については市場の参加者の多くが注目しており、その市場の捉え方を理解することは投資には不可欠なものとなりつつあります。これを機に経済指標について理解を深めていくと良いのではないでしょうか。