債券(社債)に投資するためのETFは、どの銘柄を選ぶべきなのか──。
米国社債ETFといえば、AGG、BND、LQDが有名ですが、分配金でインカム収入を狙っている方にとってどれがもっともよいのかは大きな問題です。
この記事では、米国の社債ETFについて比較してみます。
分配金利回り:USIG>LQD>BND>AGG
ETFを選ぶためには様々な考え方がありますが、安定した分配金を目的にETFを選ぶなら、シンプルに分配金利回りで選ぶという方法があります。利回りの計算にあたっては価格も重要な要素であり、3銘柄を横に並べてみるとその特徴は明らかです。
なお、比較は2021年末(2021年12月31日)時点での情報をもとにしています。
AGG | BND | LQD | USIG | |
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名称 | iシェアーズ・コア 米国総合 債券市場ETF |
バンガード 米国トータル 債券ETF |
iシェアーズiBoxx 米ドル建て 投資適格社債ETF |
iシェアーズブロード 米ドル建て 投資適格社債ETF |
運用会社 | Black Rock | Vanguard | Black Rock | Black Rock |
設定日 | 2003/09/22 | 2007/04/03 | 2002/07/22 | 2007/01/05 |
連動指数 | ブルームバーグ 米国総合 インデックス |
ブルームバーグ 米国総合浮動調整 インデックス |
Markit iBoxx 米ドル建てリキッド 投資適格指数 |
ICE BofA USコーポレート インデックス |
経費率 | 0.03% | 0.03% | 0.14% | 0.04% |
分配時期 | 毎月 | 毎月 | 毎月 | 毎月 |
年間分配金 | $1.549210 | $1.675008 | $2.020431 | $1.394208 |
分配金利回り | 1.71% | 1.90% | 2.20% | 2.25% |
年間騰落率 | -3.48% | -3.90% | -4.06% | -3.60% |
価格(2021年末) | $114.08 | $ 84.75 | $132.52 | $ 59.74 |
価格(2020年末) | $118.19 | $ 88.19 | $138.13 | $ 61.97 |
実効デュレーション | 6.65年 | 6.8年 | 9.56年 | 8.88年 |
平均残存年数 | 8.51年 | 8.8年 | 13.71年 | 11.55年 |
国債比率 | 39.08% | 41.66% | 0.00% | 0.00% |
格付(A未満のみ) | BBB:14.47% | BBB:15.5% | BBB:49.73% BB:0.16% |
BBB:50.77% BB:0.17% |
この比較からわかることは、2021年において分配金利回りは高い方からUSIG>LQD>BND>AGG、年間騰落率は高い方からAGG>USIG>BND>LQDであることがわかります。
なぜ分配金利回りや年間騰落率に差が出るのか?
先ほどの比較を見ると、同じ米国社債を組み入れるETFにもかかわらず、なぜこれだけの差が出るのか気になる方も多いでしょう。それは、端的に言えば連動するインデックスが異なるため、組み入れている債券の種別や銘柄、ウエイトが異なることに起因します。
もう少し長めの期間で比較してみましょう。4つの中で歴史が浅いBNDの設定日(2007/04/03)から2021年末までのパフォーマンスは以下の通りです。


グラフはETF価格の変動を示しており、青がAGG、赤がBND、黄色がLQD、緑色がUSIGです。少しわかりにくいですが、青のAGGと赤のBNDはほとんど重なっており騰落率に大きな差はありません。というのもこの2ファンドが連動する指数は同じブルームバーグ米国総合インデックスの系列に属しており、若干異なりますが長いスパンではほぼ同じ動きを示します。BNDの方が若干優位となる微妙な違いは過去に生じていた経費率の差が原因であるといって問題ないものでしょう。
一方、長い期間で比較すると、単純な騰落率では黄色のLQDがもっとも上昇し、USIGが続きます。ただし2020年3月のコロナショック時の下落を見ると、LQDやUSIGは下落幅が相対的に大きいことがわかります。では、これら4つのETFは具体的にどのように異なるのでしょうか?
AGGとBNDが連動している指数は、ブルームバーグ社が算出・公表している米国総合のシリーズです。このインデックスは国債から政府機関債、モーゲージ債、そして社債など幅広い種別の債券が含まれています。国債をはじめAAA・AAなど高い格付の債券発行体が多いことは相場が不安定な際にも安定したパフォーマンスをもたらす一方、利率という観点では社債のみから構成されるインデックスに劣るという傾向があります。
一方、LQDが連動している指数は、Markit(マークイット)社が算出・公表しているインデックスです。iBoxx米ドル建てリキッド投資適格指数は先進国の法人発行体が発行する米ドル建ての投資適格債券を組み入れています。LQDには国債が含まれていないためマーケットが通常時のパフォーマンスはAGGやBNDよりも高くなる傾向があり、逆にマーケット下落時にはクレジット(信用)への影響により価格が下落しやすいという特徴があります。この傾向は投資適格下限のBBB格付の比率がLQDでは顕著に高いということからも明らかです。(なお、BB格付は格下げが生じた発行体で一時的に存在するのみと考えられます。)
また、USIGが連動している指数は、バンク・オブ・アメリカが算出・公表しているインデックスです。ICE BofA USコーポレート インデックスも組み入れ対象は先進国の法人発行体が発行する米ドル建ての投資適格債券ですが、残存年数がやや短い特徴があります。パフォーマンス特性はLQDと近く、コストがかなり抑えられている点は魅力的です。
AGG・BNDとLQD・USIGの間にはもうひとつ大きな違いがあります。それは残存年数です。一般に、金利が上昇することは債券の価格が下落することを意味しますが、残存年数が長い債券は金利変動の影響を大きく受けるとされています。そしてその金利変動の影響の受けやすさを「デュレーション」として表現します。
AGG・BNDは残存年数8〜9年(実効デュレーションは6〜7年)ですが、LQDは残存年数13〜14年(実効デュレーションは9〜10年)、USIGは残存年数11〜12年(実効デュレーションは8〜9年)と償還まで期間が長い債券を保有する傾向にあり、金利の影響を受けやすい特徴があります。
なおコストの観点で言えば、考慮が必要なのはファンドの経費率だけではありません。購入時や売却時にも取引手数料がかかります。最近では多くの証券会社が海外株式や海外ETFを取り扱うようになってきており、手数料で優劣がかなりはっきりするようになってきました。手数料を比較して実際にどの証券会社を使うか検討してみるとよいでしょう。

債券の価格は市場動向で変動する
先にも紹介したように、債券といえども価格は変動しており、その要因として①金利の変化、②クレジット地合いの変化があげられます。そのため、債券ETFは分配金が安定していたとしても、価格の変化により分配金利回りが変化することがあります。
一般的には、十分な分散投資を行えていれば、社債といっても株式ほど大きな価格変化にさらされることはありません。しかし、2020年3月のコロナショッックでは株式だけでなく比較的安全な資産である債券まで売り浴びせが生じ、価格変化が大きかったことも事実です。
その後は、各国の中央銀行が金融緩和を行ったことで金利は低下し、債券価格が上昇するなど、かつてほとんど見られないほどのボラティリティ上昇がありました。2022年以降は金融緩和縮小や各国の利上げにより、債券価格は下落すると見られています。
このように、いかに分配金目的で安定重視の投資と言えども、将来は誰にもわからないというのが投資の醍醐味といえるでしょう。